ワンセグ携帯電話でのNHK受信契約は解約または無効になるのか。返金は?

埼玉地方裁判所で、「ワンセグ付きの携帯電話を持っているだけでは、NHKと受信契約を結ぶ義務はない」という判決が出ましたね。その内容を確認し、今後の展開を予想してみます。

ワンセグとNHK受信契約

判決の内容

これまでNHKは、ワンセグ付きの携帯電話やスマートフォンを持っているだけで受信契約締結義務が生じる、とアナウンスしてきました。

NHK よくある質問 パソコンや携帯電話(ワンセグ含む)で放送を見る場合の受信料は必要か

今回の判決は、

「携帯電話の所持は放送法上の受信機の設置に当たらない」

と述べて、従来のNHKの見解とは正反対の結論を示しました。

判決の骨子

判決の骨子は、

  1. 携帯電話は「携帯」するものなので、放送法に言う「設置」にあたらない。
  2. 携帯電話の所持は、放送の受信を目的としたものではない

という2点のようです。

問題になっている放送法第64条1項の規定は次のとおりです。

第六十四条  協会の放送を受信することのできる受信設備を設置した者は、協会とその放送の受信についての契約をしなければならない。ただし、放送の受信を目的としない受信設備(中略)のみを設置した者については、この限りでない。

赤字の文言にワンセグ付き携帯電話が該当するか否か、が裁判の争点でした。

常識的な判決

テレビを見ることを目的として携帯電話を買う人は必ずしも多くはないですから、

「どうして電話を買うとDocomoのほかにNHKにもお金を払わないといけないのか?」

という疑問を持つ人は、これまでにも当然いたでしょう。

最近の携帯電話料金は非常に安いです。Docomoの2年縛り契約は、ガラケーの音声通話のみの契約なら、1000円分の無料通話がついて、月額980円です。

テレビを見ない人にとっては、携帯電話会社に払う金額が月額980円なのに、どうして何のサービスも受けていないNHKには月額1260円も支払わなければならないのか、おかしな話といえば、おかしな話です。

今回の判決は、常識的といえば常識的な判断です。

原告側がさっそくYoutubeに勝訴を報告する動画をアップしていました。

NHK側の弁護士さんは超エリート

上の動画に映っている判決書によると、NHK側の訴訟代理人は、日本最大手の法律事務所「長嶋・大野・常松法律事務所」が担当しています。担当弁護士は、

三村量一弁護士澤田将史弁護士門野多希子弁護士

このお三方の出身大学は東大、東大、早稲田。なかでも三村弁護士は、東京高等裁判所の判事も務めた超エリートです。

いっぽう原告は弁護士も立てずに本人訴訟で最後までやったようです。それで勝訴ですから、たいしたものですね。

すぐに何かが変わるわけではない

今回の判決を受けて、何が変わるのでしょうか。結論から言えば、すぐに何かが変わるわけではありません。

第一に、今回の判決は地方裁判所の第一審ですから、まだ高等裁判所、最高裁判所と2ラウンド残っています。NHKは訴訟費用の心配などしなくてよいし、法律事務所に委託するだけなので手間もかかりません。おそらく、控訴するでしょう。

すでにNHKニュースでも、

「判決は放送法64条の受信設備の設置についての解釈を誤ったものと理解しており、ただちに控訴します」

と放送したようです。

NHK側から主体的に取り扱いを変えてくるのは、最高裁判所で判決が確定してからです。それまでは、NHK側から受信契約者に対して何らかのアプローチがあるとは思えません。

では、一般の人は、NHKに対して当面どういう態度で臨めばよいのでしょうか。

未契約の人の場合

NHKの訪問員は、これまでは、

「ワンセグ携帯電話を持っていれば、受信契約締結義務があります」

と言っていました。この言葉は、当面このまま言い続けると思われます。

なぜなら、これはそもそもNHKと総務省の一方的な見解を述べていたにすぎないからです。裁判の敗訴が確定するまでは、これからも同じように一方的に述べ続けるでしょう。

ただし、契約を拒否したい場合に、

「うちにはテレビはなくワンセグ付携帯電話しかありません。埼玉地方裁判所で、ワンセグ携帯は受信契約の義務がないという判決が出ましたよね」

と反論すれば、断る理屈が立てやすくなったとは言えます。

もっとも、そんなことを言ってNHKに対してワンセグを持っていることを認めてしまうと、後日、上訴審で判決が覆った場合に、ワンセグの所持を認めた時点までさかのぼって受信料を請求される可能性があります。

拒否するなら、ワンセグうんぬんの論点には触れないほうが賢いかも知れません。

NHKと受信契約がある人の場合

家にテレビがないのに、ワンセグ付き携帯電話を持っているせいでNHKに受信料を払ってきた人は、今回の判決に最も興味を持っている人たちでしょう。

今回の判決で、受信契約はどうなるでしょうか。結論から言えば、当面は何も変わりません。

さいたま地方裁判所の判決を根拠に解約を申し入れても、NHKは認めないでしょう。NHKは上訴して争うでしょうから、最高裁判所の判断がでるまでは、NHK側が自らの過ちを認めることはありえません。

判決が確定したら受信契約はどうなるか

では、最高裁判所まで行って判決が確定したら、いまある受信契約はどうなるのでしょうか。

放送法上の契約締結義務がないという判断が確定しても、それイコール受信契約が無効ということではありません。受信契約は私法上の契約として成立しているので、その有効性は放送法ではなく民法等の規定によって定まります。

この場合、問題となるのは民法九十五条の規定です。

民法 第九十五条

意思表示は、法律行為の要素に錯誤があったときは、無効とする。ただし、表意者に重大な過失があったときは、表意者は、自らその無効を主張することができない。

話がむつかしくなるのですが、この民法95条の解釈上、

自分がNHKと受信契約を締結した際に、受信契約を締結する動機(法律で受信契約が義務化されているから契約するのである、ということ)をNHK側に明示または黙示によって表示していた場合は、その義務がないことが確定した以上、受信契約は無効になります。

NHK受信契約の場合、上記の条件を満たしているのが普通だと思います。

なぜなら、そもそも契約義務がないのに契約する人はいないでしょうし、NHKの訪問員は「ワンセグでも締結義務があります」と説明するので、その説明を信じてみなさん受信契約を締結したはずです。したがって、受信契約締結義務があることが契約締結の前提となっていたことは、NHK側も当然わかっていたはずです。

とすれば、受信契約は無効です。無効ですから、契約を解除する必要もありません。解除すべき契約自体が、最初からなかったことになるのです。つまり、受信料を支払う理由は最初からなかったことになります。理屈の上では、支払った受信料の全額を返金してもらえるはずです。

ただし、NHKが返金に応じるかどうかは、また別の問題です。

NHKがみずから受信契約の無効を認めない場合は、国民の側が裁判で無効事由を証明しなければなりません。たとえば、

  • 受信契約を締結した際に、家にはテレビはなく携帯電話のワンセグのみであったこと
  • NHKの訪問員が「ワンセグでも受信契約締結義務がある」と間違った説明をしたこと

などを、証明しなければなりません。

この証明は相当に困難だと思います。なんの証拠も残っていませんから。結局のところ、争いを好まない一般の人にとっては、NHK側が判決に従って誠意ある行動を自主的にとるよう、期待するしかないようです。

あるいは、どこかの法律事務所が集団訴訟を組織してくれると助かりますね。

なお、念のために書いておくと、前述のとおり、すべては判決が最高裁判所で確定してからの話です。

受信料を不払いにしてよいか

今後の受信料を不払いにできるでしょうか。現時点ではまだ受信契約は存在しています。一方的に不払いにすると、支払い遅滞になります。

ワンセグに関するこの裁判は、NHK側の逆転勝訴の可能性もあります。今の時点で不払いにするのが賢い方法か、むつかしいところです。

なお、受信料の不払い履歴がある人に対しては、NHKは何かと強硬な態度をとるのが通例です。したがって、後日の受信契約の解約、返金手続などの際に、余計な面倒が降りかかってくる可能性もあります。

判決確定後にNHKが誠意ある常識的な対応(さかのぼっての返金処理等)をしてくれるなら問題はないのですが、解約には応じるものの過去の支払分の返金はしない、などの生煮えな対応をとる可能性もあります。

拒否するか否かは、あくまで自己責任。裁判の最終的な結果が見えない今の時点ではどちらが吉かはわかりません。

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